光学設計とその周辺、そしてたまに全く関係ないやつ

学んだことを書き留めていきたいと思いますが、ありふれたことを書いても人類の進歩に貢献しないので、専門的な事柄をメインにしたいと思います。なお私の専門とは光学設計とか画像処理とかです。

照明解析に必要な光線本数

照明解析をする際の最も重要な設定の1つが光線本数です. 結像光学のシミュレーションと違い, 照明解析は通常モンテカルロ法を使うため, 多くの光線本数が必要となりますが, どのくらい必要でしょうか? 時間が許す限り最大の光線本数を設定することが実際は多いかもしれませんが, 統計的な誤差要因を推定することも多少は可能でスマートに解析が出来ますので今回紹介します.

二項分布で考える

当然ながら生成した光線は目標の領域に到達する光線としない光線の2つに分かれます. 以下の図はその様子を表していますが, 光源(左側)からの光がレンズを通ってディテクター面(オレンジ)に到達しており, オレンジの目標範囲に到達する光線もあればしない光線もあります.

このように何かを行ったときに起こる結果が2つしかない試行をベルヌーイ試行といいますが, ベルヌーイ試行では2つの結果のうち一方を成功(目標領域に到達)とし, 確率変数がとる値を[1], もう一方の結果を失敗(目標領域に到達しない)とし確率変数がとる値を[0]とします. そして成功の確率をpとすると, 成功回数である確率変数Xは以下の2項分布に従います. ここでNはトータルの試行回数です.


 \displaystyle P(X=k)={}_N \mathrm{C}_k p^k (1-p)^{N-k}   \tag{1} \label{1}

例えば成功する確率が1/3の事象で, 100回の試行回数の内, 30回成功する確率は


 \displaystyle P(X=30)={}_{100} \mathrm{C}_{30} (1/3)^{30} (1-1/3)^{100-30}  = 0.067 \tag{2} \label{2}

と求められます.

この二項分布の平均Eと分散V, そして標準偏差を平均で割った変動係数Cvは


 \displaystyle E(X)=Np, V(X)=Np(1-p), Cv= \sqrt{\frac{1}{N} \frac{1-p}{p} }        \tag{3} \label{3}

Cvで表した量ぐらいは統計的な不確かさ要因があることになります. 先ほどの例をそのまま使うと, E=33.3, V=22.2 , Cv=0.14(14%)です.
これをそのまま照明解析の状況に置き換えると, 100回光線を飛ばすと平均的には約33回ディテクターに到達し, ばらつきとして 33 \pm \sqrt{22.2}=33 \pm 5ぐらいにはなりますよ, ということです.

解析したい内容がディテクター上のエネルギーのように光線本数がそのまま指標に比例するような場合はこのばらつきがそのまま指標のばらつきとなりますのでこの場合不確かさとして \pm 14%ぐらいの精度だということを言っています.

ポアソン分布で考える

ディテクターのサイズが非常に小さい場合は確率pも小さくなります. pが小さくかつ試行回数が十分大きい場合, 二項分布はポアソン分布に変形することが可能です.

詳しい導出は他の文献を参考にしてもらうとして, ポアソン分布の平均と分散, 変動係数は


 \displaystyle E(X)=Np, V(X)=Np, Cv= \frac{1}{\sqrt{Np} }\tag{4} \label{4}

となります.

二項分布にも登場しましたがNpとはざっくりいえば全光線本数Nに対し実際にディテクターに到着した光線本数とも考えられるため, 変動係数としての統計的な誤差要因は到着した光線本数のルートに反比例するとシンプルに考えることができるのが二項分布に対するポアソン分布の利点です. 誤差を小さくしたければなるべく多くの光線をディテクターに入射させようという身もふたもない話ですが, 精度が単純に光線数に比例するのではなくルートの効果にしかならないというのが重要なポイントです. 照明解析に限った話ではありませんが, モンテカルロ法の原理的に非効率な性質です.

もし二項分布で考える場合, ターゲットとなるバラつきがあって(10%とか1%とか), それを実現する光線本数を見積もりたいとき, この到着する確率というのをモデルから直接得るのは難しいため, まずは1回適当な光線本数でシミュレーションを実行し, ざっくり到着確率を得る必要があります. ポアソン分布で考える場合も実際にシミュレーションをして設定光線数と到着光線本数の関係を把握する必要があります.