光学設計とその周辺、そしてたまに全く関係ないやつ

学んだことを書き留めていきたいと思いますが、ありふれたことを書いても人類の進歩に貢献しないので、専門的な事柄をメインにしたいと思います。なお私の専門とは光学設計とか画像処理とかです。

単群繰り出し・部分フォーカシング1 (前群繰り出し)

昨今の一眼カメラ用レンズは単焦点レンズでも全体繰り出しでフォーカシングしている光学系はあまりないのではないでしょうか. その代わり俗にいうインナーフォーカスやフローティングが使われています. これらの解説をしている文書が意外となかったので今回記事としてまとめてみたいと思います.

単群繰り出し

光学系の一部のみを使ってフォーカシングする方法を全体繰り出しに対応させて単群繰り出しと呼ぶことにします. フローティングのように複数の群が異なる移動をする場合ではなく, 単一のレンズ群のみ移動させるフォーカシングに今回は限定させます. ズームで利用されるような前群のみ動かす前群繰り出し, 望遠レンズで利用されるような内部のレンズ群でフォーカシングするインナーフォーカスの2つが知られています.

非常に単純な光学系として以下の図の通り正負組み合わせの2群からなる3つの光学系で第1群を動かす場合(前群繰り出し), 第2群を動かす場合(インナーフォーカス, 後群繰り出し)を見てみます.


前群繰り出し

最初に前群繰り出しから見てみます.

 f_{1}  f_{2} 焦点距離に持つ正-正の組みあわせとして以下の図が軸上の結像を表しています. 上段から無限遠時の結像の様子, 有限距離s(前玉より)の結像(ピントズレ), 有限距離の結像(調整後)を表しています. また像面Oと前玉の像面Pの2つの像面が用意されています. 上段の無限遠結像時に対し, 何も調整しない場合の有限距離の結像では当然ながら元の像面位置OからピントはΔZの分ズレることになります.

ここでズレΔZを補正するために, 前玉の位置を調整する場合, 図より前側に移動させればよいことがわかります. その移動量をd'-dとした場合, 無限遠結像の図から後側レンズからP面の距離は f_{1} -d となるのがわかるため,単純なレンズの式から以下の関係が得られます.


 \displaystyle \frac{1}{f_{1}} = \frac{1}{s}  +\frac{1}{f_{1}-d+d'}  \tag{1} \label{1}

ここから移動量d'-dが以下の式の通り表されます. 最後は物体距離が十分遠い場合の近似式です.


 \displaystyle  d'-d= \frac{f_{1}^{2}}{s-f_{1}} \simeq  \frac{f_{1}^{2}}{s} \tag{2} \label{2}

ここで中段の図に注目すると, この場合の物体距離s'を焦点距離 f_{1}と物点-焦点の間の位置xに分解すると( s'=f_{1}+x), ニュートンの式より

 \displaystyle  x ΔZ = f_{1}^{2} ⇒ ΔZ =  \frac{f_{1}^{2}}{x} \tag{3} \label{3}

となります. 物体距離が十分遠ければこのxもsと近似できますので, 式(2)と式(3)が同一, 要はP面でのズレΔZと同じ分だけ前玉を繰り出せれば(近似的に)よいということになります.
面白いのは後側のレンズの焦点距離に全く依存することなく,繰り出し量が求められ, 2つ目の場合である正-負の組みあわせの場合も同じ結果となるわけです.

では最後の負-正の組み合わせを見てみます. この場合は以下の図の通りの様子になります. この場合, 前玉の焦点面Pは物体側に来ますがそれ以外についてはこれまでと同じ考えができます. 中段の通り有限の物体距離の場合, 前玉の焦点面が同じく像側に移動します.

このズレ量ΔZを前玉レンズで補正するとするとこれまでと同じく物体側に移動する必要があります. この時この焦点距離 f_{2}と物体距離s, 焦点位置 f_{1} -(d'-d) を使うと以下の式が得られます.


 \displaystyle \frac{1}{f_{1}} = \frac{1}{s}  +\frac{1}{f_{1}-(d'-d)}  \tag{4} \label{4}

そして結局この場合でも式(1)と同じ結論が得られます.

どういう組み合わせにせよ, 前群繰り出しの場合はフォーカシングの移動の向きは物体側です.

今回はここまでとして,次に以下のリンク先で後群繰り出しを扱います.
eikonal.hatenablog.jp