光学設計とその周辺、そしてたまに全く関係ないやつ

学んだことを書き留めていきたいと思いますが、ありふれたことを書いても人類の進歩に貢献しないので、専門的な事柄をメインにしたいと思います。なお私の専門とは光学設計とか画像処理とかです。

測光量の計算例3 (積分球照度, ファイバー結合効率)

今回は別の測光学の応用としていわゆる積分球の照度分布と光源からファイバーへの結合効率を取り上げてみます.

積分

積分球とは言わずもがな以下のページにあるように内部が高い反射性の材料で覆われた球状の物にいくつかの小さな開口が設けられているもので, ある光源から出た光を平均化し均一な照明光源としたり, 受光させたりすることに使用します.
積分球とは|システムズエンジニアリング | 光学機器-分析機器-計測器

実際の積分球はバッフルなりいろんな設計がありますが, 今回は以下の図のような完全な球に大きさの無視できる開口がいくつか空いている理想的な状況を基に, ある輝度Lの光が積分球に入射し球壁に均一化され, その中の点Bの位置における照度値を求めてみます. パラメーターとして球の半径がa, 反射率が Rとし, 完全拡散面とします.


まず上左図のように入射した光束が積分球内で点Aで1回反射した成分が点Bの位置に作る照度成分を求めてみます. 点Aの位置の微小面積 dA_wと点Bの微小面積 dA_dとの測光量の変換を考えることになります.

赤線で示される光線がもつ微小光束は球上の点Aで作る微小光束 d^2\Phi_1


 \displaystyle d^2 \Phi_1=L dA_w d\omega \cos{\theta}   \tag{1-1} \label{1-1}

となります. 微小立体角要素 d\omega

 \displaystyle d\omega=\frac{dA_d \cos{\theta}}{b^2}   \tag{1-2} \label{1-2}

となり, また弦の長さbは b=2a \cos{\theta}となりますので改めて式(1-1)を書き直すと以下の式(1-3)とまとめられます.

 \displaystyle d^2 \Phi_1=\frac{L}{4a^2} dA_d dA_w   \tag{1-3} \label{1-3}

以上は点Aからの成分のみ計算していましたが, ここから球上のすべての位置から点Bに作る照度を計算します.
完全拡散面の場合球上の点における輝度Lは L=RE/\piとなるため, 式(1-3)を積分すると,


 \displaystyle d \Phi_1=R \frac{dA_d}{4 \pi a^2} \int E dA_w=R \frac{dA_d}{4 \pi a^2} \Phi_e \tag{1-4} \label{1-4}

となりますが, ここで  \Phi_eは全入射光束を表しています.

改めて強調すると, この式(1-4)が入射光が1回だけ反射した成分が作る点Bの位置の光束です. この式(1-4)がおもしろいのが球の形状については半径aにのみ依存し, 元の入射光源がどういった場所にあるとかは一切関係ないことになります. 式(1-4)の途中の積分  \Phi_eでまとめられるなら, 光源が積分球内にあっても同じ結果です.
よって, 次に考える2回反射の成分を考えると, 上右図のようにA->A'->Bと2回反射を経て点Bで作る光束  \Phi_2は式(1-4)に反射率Rをかければよいだけとなります.
よって全反射回数をまとめて, 最終的な光束  d \Phi_{total}


 \displaystyle d \Phi_{total}=\sum_{i=1} d \Phi_{i}=R \frac{dA_d}{4 \pi a^2} \Phi_e [1+R+R^2+..... ]  =\frac{dA_d}{4 \pi a^2} \Phi_e \frac{R}{1-R}               \tag{1-5} \label{1-5}

と表されます. 式(1-5)を dA_dで割れば照度となりますし, さらに \piで割れば積分球壁が作る輝度となります.

以上の説明は基本的に積分球の開口が小さく無視できるとしましたが, 最後に開口の影響を考えてみます.
図のように開口 S_iがあるとします. 式(1-4)の  \Phi_eが開口の分が失われるため,  d \Phi_1  1-S_i/4\pi a^2の係数がかかると考えればよいです. そしてこの係数が当然2回反射, 3回,,,の成分にも同様に影響するため, 式(1-5)が


 \displaystyle d \Phi_{total}=\sum_{i=1} d \Phi_{i}=(1-f)R \frac{dA_d}{4 \pi a^2} \Phi_e [1+(1-f)R+(1-f)^2(R)^2+..... ]  =\frac{dA_d}{4 \pi a^2} \Phi_e \frac{R(1-f)}{1-R(1-f)}               \tag{1-6} \label{1-6}

ここでfが全表面積に対する開口の割合である  f=S_i/4\pi a^2を示しています. もちろん他の場所に開口があればその分をこのfに足せばよいだけとなります.

ファイバー結合効率の計算

次に光をファイバー端面に照射したときの結合効率を求めてみます. レーザーのようなガウシアンビームでは電磁光学的なモード毎の導出の仕方があったりしますが, ここではあくまで幾何光学的な測光学の範囲での扱いです.

ファイバーといってもいろんな種類がありますが, 今回は下図で表した最もシンプルなステップインデックスファイバー, つまり単一の屈折率 n_1のコアを n_2のクラッドで囲み, その中を光が全反射でロスなく伝搬していくことを利用している素子を扱います. 全反射の条件から n_1>n_2となります. そして空気からファイバに入射する際に全反射が起きる条件からファイバーを伝搬できる最大入射角 \theta_{max}は以下の式の通り表されます.


 \displaystyle \sin{\theta_{max}}=\sqrt{n_1^2-n_2^2}   \tag{2-1} \label{2-1}

この値を2乗した \sin^2{\theta_{max}}をファイバーのNAと呼びます.

このステップインデックスファイバーの伝搬を状況としては以下の図を使います. ファイバコア半径は r_Lとし, z=0の位置にファイバ端面があるとします.

まずファイバに入射する輝度Lの光束を考えるため, 微小範囲の光束の以下の式を出発点とします.


 \displaystyle dΦ=L(r, \theta, \phi) dA_s d\omega \cos{\theta}   \tag{2-2} \label{2-2}

ここで微小立体角要素は d\omega=\sin{\theta}d\theta d\phi' と微小面積は dA_s = r_s dr d\phiとなることを利用すると, 入射する光束 \Phi_S

 \displaystyle Φ_S= \int_0^{r_L} dr_s \int_0^{2\pi} d\phi  \int_0^{\pi/2} d\theta \int_0^{2\pi} d\phi'   r_s     L(r_s, \theta, \theta',\phi) \cos{\theta} \sin{\theta}   \tag{2-3} \label{2-3}

となります.
さてこの \Phi_Sがどれだけファイバーに結合し伝搬するかは別に難しいことはなく単に空気から屈折率 n_1の媒質に入射するだけです. ただ1点気を付けるのは \thetaが全範囲をとるのではなく式(2-1)の最大角までに制限されるということです. そのため \Phi_Fは以下の式(2-4)となります.

 \displaystyle Φ_F= \int_0^{r_L} dr_s \int_0^{2\pi} d\phi  \int_0^{\theta_{max}}  d\theta \int_0^{2\pi} d\phi'   r_s     L(r_s, \theta, \theta', \phi) \cos{\theta} \sin{\theta}   \tag{2-4} \label{2-4}

あとはこの光束の比 \Phi_F / \Phi_Sをとればファイバーへの結合効率が求まります.
具体的な例として輝度分布を以下の通りcosのべき乗でのみ表される場合を考えてみます(面上のどこでも同じ値を持つ). m=0の場合がランバート照射の条件です.


 \displaystyle L(\theta)=L_0 \cos^m{\theta}   \tag{2-5} \label{2-5}

この際式(2-3), (2-4)は

 \displaystyle Φ_S= \pi^2 r_L^2 L_0 \frac{2}{m+2},   \quad  Φ_F= \pi^2 r_L^2 L_0 \frac{2}{m+2} [1-(1-NA^2)^{\frac{m+2}{2}} ]    \tag{2-6} \label{2-6}

となります.

最終的に結合効率 \eta


 \displaystyle \eta=  1-(1-NA^2)^{\frac{m+2}{2}}    \tag{2-7} \label{2-7}

です. この式(2-7)からNAが大きいほど結合効率は上がることはすぐ確認できます. またランバート照射条件として m=0とすると,  \displaystyle \eta=  NA^2  ともっと単純な式になります.

参考文献
TECHNICALGUIDE: Integrating Sphere Radiometry and Photometry Labsphere, Inc. http://www.labsphere.com/ (Accessed 20 Oct 2023)
Bunch, Robert M. Optical Systems Design Detection Essentials: Radiometry, Photometry, Colorimetry, Noise, and Measurements. IOP Publishing, 2021.