光学設計とその周辺、そしてたまに全く関係ないやつ

学んだことを書き留めていきたいと思いますが、ありふれたことを書いても人類の進歩に貢献しないので、専門的な事柄をメインにしたいと思います。なお私の専門とは光学設計とか画像処理とかです。

光学設計の参考書

突然ですが光学設計に関する本を自分なりに紹介します.

しかし本といっても最初に買ったときの評価が後になって変わるってことよくあります. つまり買った当初はそこまで読まなくても後になりいろいろ学ぶにつれその本の真価というのをようやく理解するということがよくあります(ただ不勉強なだけかもですが). なのでこの記事の内容もちょくちょく修正することなるかもしれません.

なお, 紹介の順序はおすすめ度を表しているわけではないです.

光学一般

まずは光学の一般的な本から紹介します. 極端な話単純な結像系のレンズ設計をする場合, 中学で学ぶレンズの公式やスネルの法則さえ知っていれば光線追跡はできてしまうわけですが,やはり一通りは学んでおく必要があるのではないでしょうか.

しかし他の分野に比べると光学は学びづらいとよく思います.
干渉などは時間と空間の2つの変数が独立に関係するためその時点でとっつきづらいです.また反射や屈折とか回折など現象が多岐にわたり, それに応じてミラーやレンズなど個別の光学素子の細かい説明がどうしても多くなるため, 電磁気学量子力学などのようにサイエンス的おもしろさが感じづらいと個人的には思います. サイエンスというよりはエンジニアリング的側面が強いのは実際望遠鏡なり顕微鏡なり科学機器として発展したところがあるからでしょうか?

少し道がそれましたが本の紹介をしていきます.


光学入門―光の性質を知ろう

日本の著者が書かれた光学の本は割とどの本も同じぐらいのボリュームで扱っている内容にそこまで差もあるわけではないので, また学習者のバックグラウンドも物理だったり電気だったりまちまちな気もしますので各自好みで選んでもらうのが一番な気がしますが, あえて私が読んでいた本を紹介するとこちらの本です.

ヘクト 光学

全3巻ありますが最初が幾何光学, 2巻目が干渉や回折などの波動光学, 3巻目がフーリエ光学やコヒーレンス理論となっています. よく見かける本で海外著書の中では最も入門書としてポピュラーではないでしょうか.光学の全般的なトピックをそこまで高度な数式を使わずに説明しており定性的な説明が理解しやすいです. ただトピックをなぜかその歴史なども交えながら説明していたりと話がそれがちなため無駄に読みづらくなっているのが難点です*1.


光学の原理

古典的な名著として有名です. これも翻訳版は全3巻あり, 1,2巻が幾何光学, 波動光学, そして最後の3巻が発展的な回折や結晶光学など電磁光学的な内容となっています. 多くのトピックを深いところまで扱っていますのである程度高度な内容を学ぼうとなったときこの本を読んでみたくなります. ただ決して机のそばのすぐ手を伸ばせば届くところにおいておくような本ではないですし, またこの本が扱っている内容をもっとわかりやすく扱っている文献はたくさんあります.


Modern Classical Optics (Oxford Master Series in Physics)

ModernなんだかClassicalかよくわからないタイトルですが要は古典光学をより現代的な視点で取り扱うという趣旨の本です. 古典光学全体というよりは個別のトピック毎に扱っていますので, ある程度光学全般を学んだ後に読むような種類の本です. 回折やコヒーレンスなど現象の説明から回折格子や薄膜, 共振器のデバイスの説明を一般的な入門書より少し突っ込んで説明していますが割と文体がフランクな感じなので読んでいて面白いと感じるかもしれません. 個人的には回折格子コヒーレンスの説明が丁寧でした.


物理光学 (光学ライブラリー)

物質中の光の伝搬を扱った内容の本です. 光学の原理を読んでもよくわからなかった円錐屈折が良く理解できました.

光学設計

次に光学設計に関する本を紹介します. ここでいう光学設計ってそもそも何?,という気もしましたが, 収差についてメインに扱っている本ということにします.
私自身がそうでしたがこういった本を読んだだけで早速ソフトウェアがで設計ができるのか,というとそれはちょっと難しいかもと思います. どうせ設計ソフトで仕事するならまずは設計ソフトの使い方を学んで(この前に高校物理のレンズの公式程度の最低限の知識は必要ですが), なんとなく雰囲気がわかってから光学設計の本を読むもしくは同時進行で進めるという学び方もありではないでしょうか.

また話はそれましたがそれでは説明していきます.


復刊 レンズ設計法

だいぶ古い本ですがいろんなところで参考文献としても挙げられていることで有名です. 扱っている内容もページ数が少ないにもかかわらず5次収差や瞳収差等他の本では扱っていないような発展的なトピックを扱っています. 光学設計をすることになって最初に読む本という感じではありませんがエンジニアとして高みを目指すなら必携.

レンズ設計―収差係数から自動設計まで

この本も先のレンズ設計法と同じく収差論をメインに扱っています. 実際の収差係数の計算例が多く説明されており, 光学設計というよりは収差論の参考書という特徴がありますので初めて読むような本ではないかもしれませんがたまに収差係数を計算する必要になったときに重宝します(ほとんどないですが). ただ残念ながらすでに絶版気味です.


レンズデザインガイド

結構この世界では昔は有名な本だったようで私も会社の本棚にあるのを読んだくらいなのですが, 割とコンパクトなページ数にもかかわらず結像光学の基礎からそして収差も収差論をベースにテンポよく説明してくれるためエッセンスを効率よく学べます. 収差係数の深い導出などはしていない代わりに性能を高めるには各エレメントの収差係数を実際にどうバランスさせていくかも説明の重みがあるなど, 実際の設計にも参考となる内容がまとめられています. こちらも絶版.


レンズ設計工学

この本も収差論ベースの光学設計の本ですが, 収差論そのものはそこまで深く進まずに実際にそれを設計にどう使うかにある程度重みがおかれている本です. ほかにもフォーカシングやズームレンズのパワー配置の計算など設計の際のポイントが取り上げられどうやって考えていけば設計ができるのか実際の光学設計に即してカバーしてあります.
2022年時点収差論を扱った本の中で数少ないまともに流通している本ではないでしょうか.


ユーザーエンジニアのための光学入門

収差論自体はそこまで深く扱っているわけではないですが, 収差係数にも触れつつ光学設計全般を扱っている本です. 先に挙げたレンズ設計工学より初心者向けとなっています. 会社の先輩はあるトピックを忘れたと思ったときまずこの本を手に取るようです. ただ残念ながらすでに絶版気味です.



レンズ光学入門―結像の本質を射抜く

先述した文献は収差論をベースに収差・結像光学系を説明していますが, 収差論には触れず, PCによる光線追跡前提のモダンな光学設計の教科書です. 光学設計に必要なトピックは波動光学や照明光学系含め網羅しており, また例えばなぜ対称な光学系がよいのか, フィールドプラットナーなど設計のテクニックにも触れています. MTFの節が実際のMTF測定器も含めたトータルでの光学系としてどういう原理となっているかの説明があるのですが, ここはユニークと感じました.


シッカリ学べる! 「光学設計」の基礎知識

この本も収差論を使わない結像光学系を扱っている本です.先のレンズ光学入門よりはやや数式は少なめです. 光学設計の仕事をすると決まった際に一番最初に読んでもよいかもしれません.


光機器の光学

全2巻あり最初が幾何光学的な内容, 2巻目がMTFやレーザー光学,そして測光照明光学系の説明です. 特に最後の第8章の測光に関する内容はこの本が最も丁寧に詳しく扱っているのではないでしょうか. というかこの本以外で包括的にまとめている本を知りません. また波面収差が残存するときの回折像分布を扱っている文献も私はこの本と光学の原理しか知りません.残念ながらこの本も絶版です. 個人的には一番復刊してもらいたい本です.
2023/9/24追記 出版元のページを見るとどうやら再版されるらしいです.


Introduction to Aberrations in Optical Imaging Systems

せっかくなので海外の本も. タイトルの通り結像光学系の収差の教科書です. EasyではなくFirstという意味のIntroductionの本で大学の研究として専門にするための入門書に近いです. 5次収差も含めた収差を数式使って理論的に深く扱っており,偏光収差や大きく偏心した光学系の収差(Nodal Aberration Theory)のようにレベルの高いトピックも扱っています.

発展的な光学設計の参考書

発展的な本も紹介します

回折と結像の光学 (光学ライブラリー)

前半は波動光学的な結像, 後半電磁光学的結像(ベクトル回折)について扱っている本です. 幾何光学を越えた結像についてここまで詳細に扱っている本はなかなか貴重ではないでしょうか. 照明光のコヒーレンスや各光学機器のレイアウト毎にどう結像されるかを詳しく説明されています.

シミュレーション光学―多様な光学系設計のために

タイトルの通り特に光学シミュレーション手法の本. MTFや照明解析の説明が豊富です. なお本書の内容のいくつかは著者のコラムサイトである以下のリンク先でも観覧することはできます
光学設計ノーツ – 光学設計・拡散板ならオプティカルソリューションズ


フーリエ光学

有名なフーリエ光学の本. 前半は回折からMTFの話, 後半は俗にいう光コンピューティングに関して. 後半まで含めるとどちらかというと情報工学的側面が強く,光学設計の仕事に関係ないトピックも多いかもしれなですが,前半だけでも十分価値がある本だと思います.特に回折積分の基礎については個人的にはこの本が最もわかりやすく, またフレネル回折が実世界の環境でも近似として有効なのかなど他の本ではあえて触れないような箇所もあいまいさなく扱っています.そして残念ながらこの本も絶版のようです(2022年時点).このレベルの本も絶版なのか,,,. 大学の授業の教科書でも使われているでしょうからその内復刊されると期待したいですが, 原著の英語版はもちろんありますし,次にあげる本も基本的には同じ内容を扱っているのでそちらで学んでもよいと思います.


光とフーリエ変換

内容としては先のフーリエ光学の内容を光計算の部分は割と省略しコンパクトにした本. わずか150ページ少しにフーリエ変換の理論的基礎からFFTアルゴリズムの説明も, それからフーリエ光学, コヒーレントインコヒーレント結像, そしてファンシッター‐ゼルニケの定理まで説明しきっているのは見事と感じます.


光学実験・測定法

光学に関するいろいろな光学実験方法の参考書で波面収差測定器の説明もあるなど企業で行っているような光学設計にも結構関係があります. 各内容が割と独立に章として分けられており最初から最後まで網羅して読むというよりはその都度興味のある個所をひろって読むような本です. ただその中でもゼルニケ多項式とその応用の説明がわかりやすく, そもそもゼルニケ多項式はその有用性の割に扱っている本も少ないため*2, そこは直近業務と関係なくても是非読むのをお勧めします.

光学システム

光学は光学素子からセンサーまで多岐にわたる分野です. これまで紹介してきた本はレンズ設計なり, 狭い範囲の光学に絞ったものでしたが, 光学システム全てを包括した, 要は基本的な光学理論から光検出まで扱ったような本もあります. どちらかというと大学の研究室向けの本と言えるのかも. あまり数はないですが, お勧めというか少なくともチラ見したところいい感じそうなのが以下の2冊です. どちらも高いです.

Optical Systems Design Detection Essentials: Radiometry, photometry, colorimetry, noise, and measurements
https://www.amazon.co.jp/Optical-Systems-Design-Detection-Essentials-ebook/dp/B0987MNRX7/www.amazon.co.jp

Building electro-optical systems
https://www.amazon.co.jp/Building-Electro-Optical-Systems-Making-Applied/dp/0470402296/www.amazon.co.jp

その他

電磁気学

光学設計の仕事をするうえで古典光学のベースとなる電磁気学を学ぶ必要はないかもしれませんがあえて電磁気学の本も1冊挙げておきます. 世の中には光学以上に電磁気学に関する本があるため, 各自の好みに合わせて選んでいただければよいと思いますが, 難易度も高くなく内容もコンパクトに収まっていますので(あと人気があるだけあって中古だとかなり安く手に入る)個人的にはおすすめです. 今まで光学設計の仕事をしてきてこの本が扱っている以上の電磁気学の知識が必要となったことは記憶の限りありません*3. もちろん電磁光学的な解析・設計を専門とするなら事情は違ってきますがそれでもこの本でひとまず間に合うかもしれません.


これなら分かる最適化数学: 基礎原理から計算手法まで

光学とは全く関係ないのですがレンズ設計でお世話になる最適化手法について応用数学的観点から基礎を説明した教科書です. と聞くとなんだか難しいようですが,例題交えかなり親切丁寧に説明してくれているおかげで非常に読みやすい本です. Amazonでも多くの高評価レビューがあるところもうなづけます. 後半は割と機械学習などの説明になるため, 前半だけ読むことで最適化について十分理解できます. いわゆるグローバル最適化については扱っていません. 先に挙げたレンズ設計の本でも最適化の説明が一応ある本もあるのですがそういえば一度もまじめに読んだことありません.

以上唐突ながらこれまで読んできた本を紹介しました. もとはアフィリエイトという技を覚えたのでそれを使ってみたかっただけですが, いかんせん絶版が多いのでたいした儲けは期待できません.

*1:これは決して日本語訳が悪いわけではないです

*2:というか無い?

*3:あえて言えばクラマースクローニッヒの関係とその屈折率への応用ぐらい