光学設計とその周辺、そしてたまに全く関係ないやつ

学んだことを書き留めていきたいと思いますが、ありふれたことを書いても人類の進歩に貢献しないので、専門的な事柄をメインにしたいと思います。なお私の専門とは光学設計とか画像処理とかです。

ゴニオメーターの座標系

LEDの配光などを測定する際にゴニオメーターを使う機会がよくあります.
ゴニオメーターには配光の角度座標のタイプというものがありタイプABCの3つがあるのですが, ここらへんを詳しく扱っている日本語の文献は見ない気がしますので, 今回はこの配光測定の際によく使用される角度座標の表し方をまとめてみたいと思います.

球座標の表し方

角度の座標と聞いて最も身近だと思われる球座標を改めて説明します. 球座標は以下の図の通り光源の基準面に対し正対の方向をZ, 光源面をXY平面として 水平方向をX, 垂直方向をYとしたとき, 以下の図のようにZ軸からのなす角度をθ, XY面に参照点を射影させたときX軸からのなす角度を \Phiとして角度座標を表す座標系です.

球座標

一方, ディスプレイの分野でよく用いられるViewing angleという表現もあります. これはZ軸からX, Y軸それぞれに角度を分解したときの角度で方向を表す表現です. (おそらく文章で書くより以下の図を見てもらったほうがわかりやすい). 以下の図で( \theta_H, \theta_V)がviewing angleで表した角度座標です.

viewing angle


単に角度を表したいなら球座標よりこのviewing angleのほうがわかりやすいのではないでしょうか?
また座標点と原点の距離が単位長さとすると( r=1), 球座標 \theta, \Phiとviewing angle ( \theta_H, \theta_V)間には以下の関係が成り立ちます.


 \theta_H = tan^{-1}(\tan{\theta}   *\cos{\Phi})   \tag{1} \label{1}
 \theta_V = tan^{-1}(\tan{\theta}   *\sin{\Phi})  \tag{2}  \label{2}

タイプA

先述した通りゴニオメーターで使用される角度座標はタイプABCの3つがあるといいましたが, まずはタイプAから説明したいと思います.
絵にしたのが以下の図の左側ですが, 水平方向, 垂直方向それぞれに回転機構があります.

TypeA ゴニオメーターの様子

ゴニオメーターでは一方の軸がもう一方の軸とともに回転します. この図からわかる通りタイプAは垂直回転機構の上に水平回転機構が乗っていますので, 水平方向の回転は垂直方向とは独立に行うことができます. つまりタイプAでの角度座標(VH,VV)のうちVHは, 先述したviewing angleの水平方向θHと一致するということになります(上図の右側のように).

タイプB

次がタイプBです. 先ほど同様絵にすると以下の図の左側ですが, タイプAと違い, 水平回転機構の上に垂直回転機構が乗っています. よってタイプAとは逆に垂直方向の回転を独立に制御でき, にタイプBの角度座標(δHV)のうちδVは, 先述したviewing angleの垂直方向θVと一致するということです.

TypeB ゴニオメーターの様子

タイプC

最後がタイプCです. 説明は最後ですがおそらく配光測定で最もポピュラーなのがこのtypeCかと思います. 絵にすると以下の図のようになります.

ゴニオメータータイプC

実はタイプBの座標系で水平軸を90°回転させるとタイプCに一致するため本質的にはタイプBとCは同じです. それならタイプAを前に90°倒せばタイプCになるということにもなり結局どのゴニオメーターも一緒ではないかということになりますが, 確かに数式としてはそうなのですが, タイプAのように独立した回転軸が水平方向, つまり地磁気の方向の場合と, タイプBCのように独立した回転軸が垂直方向, つまり地球の重力の方向の場合を向いている場合とでは測定光源がもしその影響を受ける場合, 使用するゴニオメータータイプによって違いが出てきます. 本当にそんなことを気にする必要があるかはわかりませんが, このような経緯もあってタイプAをNorth Pole型, タイプBをEast Pole型と分けて呼ぶこともあるようです.

その他

これまで述べてきた座標系のViewing Angle座標との関係を以下の通りまとめます.

実際にこれらゴニオメーターのタイプをどう使い分けるのか, ですが, LEDのように放射方向に対称な配光分布の光源ではやはりタイプCが使いやすいのだと思います. 一方, 車載ヘッドランプのように非対称な分布の光源ではタイプAやBが好ましい場合もあると思います. またサイズが大きく重い光源では物理的に角度を制御できるのかどうかという理由で利用が難しいタイプもあるのかもしれません.

最初にviewing angle座標が概念として最もわかりやすいかも, という話をしそれならviewing angle座標で制御できるようなゴニオメーターはなぜないか, という疑問に感じるかもしれません. 正直よくわかりませんが, ただおそらくそのようなゴニオメーターを実際に作るのは単に難しいからでは?と予想します*1. もちろん実際は上の変換式がありますのでこれを使えば例えばタイプAゴニオメーターを使ってタイプCのような動きをさせるということも理屈としては可能なはずです.

参考文献:
ゴニオメータータイプABCの概要図は以下のリンク先のものを使用しました.
http://www.optronik.de/en/products/goniophotometer/goniometertypen-abc/

*1:要は2つの軸を完全に独立に制御するような機構が難しいのかもしれない