光学設計とその周辺、そしてたまに全く関係ないやつ

学んだことを書き留めていきたいと思いますが、ありふれたことを書いても人類の進歩に貢献しないので、専門的な事柄をメインにしたいと思います。なお私の専門とは光学設計とか画像処理とかです。

5次の収差1 (1/2)

ある日ふと5次の収差をネットで調べようと思ったら意外と日本語での情報が少なかったので、せっかくならということで今回記事として取り上げようと思いました

波面収差展開

最初に波面収差について簡単にまとめたいと思います.かなりざっくりとした内容になるので細かい点は適当な文献をご参照ください.
波面収差Wとは射出瞳面での理想球面との光路差として定義されます.以下の図の通り射出瞳面座標を(u,ν)、または角度Φを使ってベクトル表示ρとして表示され、像面も同様に座標(z,y)、角度θ、ベクトル表示Hとすると波面収差W(H,ρ)はレンズの回転対称性よりΦ、θに関してはその差θ-Φのみに依存するはずです.またHとρに関してはその偶数乗のみにも依存します.

つまり、 H^2=y^2+z^2、ρ^2=u^2+ν^2、H・ρ=Hρcos(θ-Φ)=yu+zνの3変数のみに依存し、この3変数でべき級数展開すると、 k=2j+m, l=2n+mとして

W(\vec{H},\vec{ρ}) = \sum_{j,m,n} W_{klm}(\vec{H}・\vec{H})^j (\vec{H}・\vec{ρ})^m (\vec{ρ}・\vec{ρ})^n 
\\\
    = W_{000}+W_{200}(\vec{H}・\vec{H})+W_{111}(\vec{H}・\vec{ρ})+W_{400}(\vec{H}・\vec{H})^2+W_{020}(\vec{ρ}・\vec{ρ})+W_{600}(\vec{H}・\vec{H})^3
\\\
    +W_{040}(\vec{ρ}・\vec{ρ})^2+W_{131}(\vec{H}・\vec{ρ})(\vec{ρ}・\vec{ρ})+W_{222}(\vec{H}・\vec{ρ})^2+W_{220}(\vec{H}・\vec{H})(\vec{ρ}・\vec{ρ})+W_{311}(\vec{H}・\vec{H})(\vec{H}・\vec{ρ})
\\\
    +W_{240}(\vec{H}・\vec{H})(\vec{ρ}・\vec{ρ})^2+W_{331}(\vec{H}・\vec{H})(\vec{H}・\vec{ρ})(\vec{ρ}・\vec{ρ})+W_{422}(\vec{H}・\vec{H})(\vec{H}・\vec{ρ})^2+W_{420}(\vec{H}・\vec{H})^2(\vec{ρ}・\vec{ρ})

\\\
    +W_{511}(\vec{H}・\vec{H})^2(\vec{H}・\vec{ρ})+W_{060}(\vec{ρ}・\vec{ρ})^3+W_{151}(\vec{H}・\vec{ρ})(\vec{ρ}・\vec{ρ})^2+W_{242}(\vec{H}・\vec{ρ})^2(\vec{ρ}・\vec{ρ})+W_{333}(\vec{H}・\vec{ρ})^3 
\\\
\tag{1-1}
 
\\\
    = W_{000}+W_{200}H^2+W_{111}HρcosΦ+W_{400}H^4+W_{020}ρ^2+W_{600}H^6
\\\
    +W_{040}ρ^4+W_{131}Hρ^3 cosΦ+W_{222}H^2 ρ^2 cos^2 Φ+W_{220}H^2 ρ^2+W_{311}H^3 ρ cosΦ
\\\
    +W_{240}H^2 ρ^4+W_{331}H^3 ρ^3+W_{422}H^4 ρ^2 cos^2 Φ+W_{420}H^4 ρ^2

\\\
    +W_{511}H^5 ρ  cosΦ+W_{060}ρ^6+W_{151}Hρ^5 cosΦ+W_{242}H^2 ρ^4  cos^2 Φ+W_{333}H^3 ρ^3 cos^3 Φ
\\\
\tag{1-2}

と展開できます.1-1式があまり日本の文献ではみかけないベクトル形式での表示、1-2がそれを展開したもので、それぞれ第1行目は収差とは別の要素となりますのでこれ以上扱いません.2行目に並べているのがH、ρの4乗に比例する項、そして3行目が6乗に比例する項目です.
横収差である面上で理想像点からのずれΔy、Δzは以下の式の通り波面収差Wを瞳座標u、νで微分した値になります.微分した結果H、ρの4乗、6乗に比例した項目は3乗、5乗に比例することになります(なので光線収差としては3、5次収差と呼ばれる).
\begin{align}
\displaystyle Δy=\frac{∂W}{∂u}、Δz=\frac{∂W}{∂ν} \tag{1-3}
\end{align}

3次収差

復習もかねて先に3次収差の説明をします. 像面での座標については対称な光学系を考えれば座標(y,0)とのみ考えてよいのでH→yとあらわされます.
まず3次の球面収差。光線収差で表すと
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{球面収差} =W_{040} ( 4u (u^2+ν^2),4ν (u^2+ν^2))  \tag{2-1}

次にコマ収差
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{コマ収差} = W_{131} ( y (3u^2+ν^2),2yuν)  \tag{2-2}

非点収差
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{非点収差} = W_{222} ( 2y^2 u,0)  \tag{2-3}

像面湾曲
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{像面湾曲} = W_{220} ( 2y^2 u,2y^2 ν)  \tag{2-4}

最後に歪曲です
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{歪曲} =W_{311} ( y^3,0)  \tag{2-5}

5次収差

さて本題の5次収差、通称シュワルツシルド(Schwarzschild)収差ですが式(1-2)の3行目の項から光線収差を求めると以下の通り
球面収差
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{球面収差} =W_{060} ( 6u (u^2+ν^2)^2,6ν (u^2+ν^2)^2)  \tag{3-1}

コマ収差
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{コマ収差} =W_{151} ( y (5u^2+ν^2)(u^2+ν^2) ,4uν(u^2+ν^2))  \tag{3-2}

非点収差
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{非点収差} =W_{422} ( 2y^4 u,0)  \tag{3-3}

像面湾曲
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{像面湾曲} =W_{420} ( y^4 2u,y^4 2ν)  \tag{3-4}

歪曲
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{歪曲} =W_{511} ( y^5,0)  \tag{3-5}

メリジオナル斜め球面収差
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{メリジオナル斜め球面収差} = W_{242} ( y^2 (4u^3+2uν^2, 2u^2ν))   \tag{3-6}

サジタル斜め球面収差
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{サジタル斜め球面収差} =W_{240} ( y^2( 4u(u^2+ν^2), 4ν(u^2+ν^2))   \tag{3-7}

メリジオナル楕円コマ収差
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{メリジオナル楕円コマ収差} =W_{331} ( y^3 (3u^2+ν^2,2uν))   \tag{3-8}

サジタル楕円コマ収差
 \displaystyle  (Δy,Δz)_{サジタル楕円コマ収差} =W_{333} ( y^3 3u^2,0)  \tag{3-9}

最後の4つの式(3-6)~(3-9)は5次になって初めて登場する収差ですが、その名前については文献によって結構呼び方が違うのでご注意. 斜め球面収差は瞳径の依存性は3次の球面収差と同じでそこに画角依存性が発生している意味で斜め球面収差と呼ばれることも理解できます.

せっかくなのでもう少し5次の収差を掘り下げたいのですが力尽きたのでまた以下の別記事で扱います.
eikonal.hatenablog.jp