光学設計とその周辺、そしてたまに全く関係ないやつ

学んだことを書き留めていきたいと思いますが、ありふれたことを書いても人類の進歩に貢献しないので、専門的な事柄をメインにしたいと思います。なお私の専門とは光学設計とか画像処理とかです。

職業としての光学設計者

キャリアとして, 職業として光学設計者ってどんな感じ?について自分なりの考えをまとめました.むしろまとまった文章というよりは百問百答のようなものに近いかも.
割と適当に書きましたのでその点ご注意ください.

バックグラウンド

周りを見渡すと大学時代の専攻としては一番多いのは物理出身で半分以上は占めているように感じます. 残りを電気や機械出身が占めている印象ですがもともと大学で学ぶ機会が限られているということもあり様々な専攻の人がいます. 専攻というよりは何かしらの光学系の研究室出身というパターンが多いという感じも.

レンズ設計等を学生の時から学んできたという例はほとんどないですが, それでもたまに会います. そのような場合, 日本に数個あるレンズ設計専門の研究室出身も0ではないですが, それよりもあるのが天文学系の研究室で望遠鏡とか探査機用の光学機器を研究開発してましたというパターンです.

男女比

女性の割合は決して多くはないですが, ただ先述した通りいろんな専攻のひとがおり, 化学のような女性の比率の多い専攻出身の方もいますので, その点では機電情報系よりはやや多い気もしますが, 誤差の範囲内な気もします.

給料

給料に関する情報はほとんどないですが, 供給が少ない分他の専門分野より専門知識が安売りされているような状況ではないため全平均よりは高いと思います.
例えばアメリカのindeedというサイトによればアメリカ人の分野別技術者の給料はOptical Engineerは$111,612, Software Engineerは$119,934, Electronics Engineerは$111,917, Chemical Engineerは$94,335, Mechanical Engineerが$86,280となっていますので比較的いいほうなようです. しかしやっぱりアメリカは数字だけ見れば給料が高い. 日本の求人を見ると年収はこの半分でに多い方, 下手すれば1/3とか1/4です.

やりがい

光学設計者だからと言って特別やりがいがあるかはわかりませんが, 例えばカメラレンズの設計をしている場合は自分が設計したどおりのものが実際物として, ディスプレイ越しで見えるのは感慨深いのではないでしょうか. あとは基本的に光学産業は作りこみの多い産業のためそういう職人的なやりがいもあるのかもしれません.

分野

大きく分けると結像光学系か照明光学系かに分けられます. 照明光学系の場合, 光学設計だけでなくややメカよりのことも学ぶ機会が多いようにも感じます. 設計ツールも違います. あとはレーザー光学系もまたちょっとこれは独立した分野かもしれないです.
求人とかは結像系のほうが多い気がするかな?
もっと広い意味で光学設計者(光学開発とか光学エンジニアとかいろんな呼び方があります)に含まれるのが, 例えば光学系のR&Dエンジニア, 薄膜技術者あとは生産系の会社だとメソロジー(各種光学検査の開発評価する)の方々もいます. あとは照明光学の一部なのかもしれませんがマシンビジョン系の業務で照明とかの検討をしている方々も広い意味での光学設計者かもしれないです.

どういう会社に勤めるか

伝統的にはカメラメーカーというパターンが多く, もちろん今も多いはずですが, いかんせん昨今のスマホ全盛の時代なので採用は細っているように業界にいる身としては感じます. ただ光学技術自体は様々な分野で利用されていますので, 2023年時点全体として需要が下がっているということもないかもしれません. 例えば自動運転がらみで自動車業界とかの求人もよく目にします. もっともそういったカメラメーカー以外の場合社内で育成する環境も乏しいため, 新卒採用よりは中途で光学設計者を集めるというパターンのほうがメインかもしれません. その点考慮するとまずはカメラメーカーで新卒で入社しキャリアを積むというのがやはり今でも主流となるかもしれないですね. 社内で蓄積された技術を活用するというのが重要な産業でもあるため, 規模も大きく歴史も長い会社だとその点でも恵まれた環境だと思います. 光学設計に限った話ではないですが技術者としてキャリアを始めたい場合, 学生でも中途採用のページを見てどういった内容があるか確認するのは重要です.

なお世界的に見ても希少な存在の光学設計者の人口の割と多くが日本にいます*1. 結構中途のページを見るとそういう外資系, 特にスマホメーカーが光学設計者を募集していたりしますので, そういったチャンスは恵まれている分野なのかもしれません.

またメカやソフトウェアに比べれば派遣労働という形態で光学設計者として働くことは比較的稀です(ゼロではないです).

キャリアアップ

ソフトウェアのように日々情報がアップデートされるような分野ではないため, 彼らほど常に新しいことを学ばないという状況ではありません. 設計ソフト開発元が定期的に開いている技術セミナーは受講すれば最新の光学設計のトピックに触れることはできます. ソフトと違い, 先述したように社内技術が社外に広がるようなカルチャーではないため, キャリアップという意味でもどういう会社に務めるかは結構重要かもしれないです.

ところで最近は職業がAIにとって代わるともいわれていますが, その点光学設計にはそこまで脅威ではないと個人的には思います. 今のAI技術は結局はAI技術単独, 人間単独というよりはAIをうまく活用した人間が最もパフォーマンスが良いところがありますので, もしこの程度の技術が光学設計の仕事を奪うようでしたら, 30年ぐらい前にPCが普及して誰でも高速に光線追跡ができるようになり, 設計ソフトの最適化機能が設計の前提となった時点で既にお役目ごめんとなっていたと想像します*2. もちろん今後の発展次第ではありますが, 分野の希少性もあるため相対的には多少状況はましなのではないでしょうか.

学生時代に身に着けておいたほうが良いこと

もちろん学生の内からレンズ設計を学びたいなら本を読んだり, いろんなレンズ設計に関するセミナーも学割があるうちに受講することは可能なのですが, ただし結局メインの設計ツールが高価で簡単に利用できませんし*3, そういったことも会社からあまり期待されていないと思ってよいです. それよりは一般的な光学の知識は学んでおいた方が良いかもしれません. 業務に絶対に必要というかこの手のことってなかなか一度会社に入ってしまうと日々の業務で忙しいため体系的に学ぶ機会が限られますので.

逆に学生時代から勉強できる, という点ではプログラミングや英語の学習はおすすめです. これも先述したとおり社会人になってからだと勉強する時間がなかなか取れません...
プログラミング言語はレンズ設計に関する部分としてはCodeV/LightToolsやZemaxがサポートしているC/C++, python, Matlabあたりが良いと思います. これら言語はデータ解析でも広く利用されていますのでその点でもお勧めです. あとは広い意味でのデータ解析・処理としてデータサイエンスとかも?
英語に関しては特に英語を使った業務がしたいとかではない限り, まずは社内でTOEIC何点以上というような基準があればそれを目標にすれば十分ではないでしょうか. もっとも日本の会社に勤める場合取引先も国内が多いため光学設計者が特別英語を使う機会が多いわけではないので, どちらかというと社内の昇進などゼネラリストとして必要になってくるというところです. 周りのメカ系のエンジニアとかはよく現地工場に行っています. といっても英語圏の国ではないこともあり必ずしも英語を使うわけではないらしいですけど.

*1:最近は韓国, 中国にも多くなっています

*2:別の言い方をすればこの時点ですでにAIに負けた

*3:一応機能が制限されたバージョンとか, オープンソースの設計ソフト自体はちらほらあります