光学設計とその周辺、そしてたまに全く関係ないやつ

学んだことを書き留めていきたいと思いますが、ありふれたことを書いても人類の進歩に貢献しないので、専門的な事柄をメインにしたいと思います。なお私の専門とは光学設計とか画像処理とかです。

スルーフォーカスMTFの見方

MTFは光学設計において最も重要な指標ということはわざわざいう必要はありませんが, そのMTF図は3つの表し方があります.
1つがよくカメラレンズのカタログにあるような像高別にある空間周波数MTFを示した図です. この図から画角vsMTFが一度にわかります.

Sony SEL50F18FのMTF図(https://www.sony.jp/ichigan/products/SEL50F18F/feature_1.html#L1_70)

またある画角に対して空間周波数を横軸にとったMTF図もよく見ます. この図から空間周波数vsMTFが一度にわかります.

MTF vs 空間周波数(https://www.edmundoptics.jp/contentassets/63e430c2adfc427d90844758b3ac47b6/fig-1-mtf.gif)

一方, スルーフォーカスMTFというのもあります. これは以下の図の通り光軸方向の像位置を横軸にとりある画角に対してMTFをプロットするような図です. これは光学設計の現場で使うぐらいかもしれませんが, 他のMTF図にはない有用な使い方ができます. 今回はこのMTFを軽く触れてみます. スルーフォーカスMTFが有用な点の1つが像面内の像面性が1つの図からわかるからです.

早速ですが以下のzemaxにサンプルとして用意してあったダブルガウスを例として挙げたいと思います.

対応するMTF図が以下の通りです.(MTFは1/10mm)

この光学系の縦収差図が以下の図です.

軸上画角(赤線)のMTFがベストとなる点を像面位置としています. 球面収差図で見ると近軸焦点位置がz=0.18となっていますが,この位置だとMTFが0.5程度となってしまい,球面収差を考慮しやや前側にフォーカス位置をずらすことでバランスをとっていることを表しています. もし常に近軸焦点位置に像面を設定しておけばベストMTF位置との距離がラフに球面収差量を表します.

一方,8度画角をみると縦収差図ではサジタルの位置がメリジオナル位置より前側によっていますが,これはMTF図でも確かにそうなっています.MTF図では両面のベスト位置(緑線のずれ)の差が0.06mmぐらいありますが,確かに収差図でも0.06mm近くあります.
縦収差図の14度あたりではどちらの面も前側によっていますが逆にメリジオナル面のほうが0.03mmぐらい前側によっています.そしてこのこともMTF図(青線のずれ)ではどちらのピークMTF位置が左側にあり,0.03mmぐらい確かにメリジオナル面のほうが左側にあることから一致していることがわかります.

という具合で1度に軸上のベストフォーカス位置, 非点収差や像面湾曲がある程度わかり, これらから像面内位置毎にフォーカス具合,いうなら像面性が把握できます. 実際に設計をする際はこのスルーフォーカスMTFを見ながら全画角のメリジオナル面・サジタル面でなるべく同じz位置でMTFピークがくるように,そしてピークMTFが高くなるように確認しつつ,あれこれ設計していくこともあるのではないでしょうか. 例えばピークMTF値は高くてもその位置が中心からズレてるなら非点収差や像面湾曲に問題あり,画角毎の中心は揃ってるがピーク値が小さいなら球面収差コマ収差を低減させる必要があるなど.

また他のMTFや横収差図で性能を見るにはベストフォーカス位置をまず探してそれから性能を見る, という流れになりますがスルーフォーカスMTFではその最初の作業が必要ないのでその分便利というのがあります.

設計というよりは評価に関することですがMTFの山の幅が被写界深度を表すことを考えると軸外のほうが幅が広いとF値が大きい,つまりけられが生じているかもしれない, というような考察もできます. 以下のモデルは実際最外画角の青線がけられている様子を示していますが, このときMTFを見ると確かにカーブの幅が広がっており被写界深度が広がっていることがわかります.

先述した通りベストフォーカス位置を探すときにいろんな画角を1度に見ながらフォーカス位置を探すのは大変なので,焦点位置を変えながらMTFを取得しスルーフォーカス図を作れば全体的にベストなフォーカス位置も探せます.

以上スルーフォーカスMTFの説明でした. あまりうまくまとめられていませんが, 他の収差図と比べると得られる情報が多いと思います. なおこれが成立するのはある程度空間周波数が小さいところで,高い空間周波数ではやはりよくわからん感じになってしまいます(以下は1/50mm). カメラ業界なら標準的に使用されるコントラストを表す10/mmと解像度を表す30/mmを使うのでしょう